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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)9807号 判決 1960年12月24日

原告 三申木材株式会社

右代表者代表取締役 春名幸夫

右訴訟代理人弁護士 村中清市

被告 浦沢将夫

同 ヤス子こと浦沢ヤス

右両名訴訟代理人弁護士 家入経晴

主文

被告等は各自原告に対して金六二九、六五三円及びこれに対する昭和三二年五月二八日から完済まで年六分の割合の金員を支払え。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

この判決は原告において金二〇万円の担保を供すれば仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、被告等が共同して原告主張の記載の約束手形二通を振出し、原告が現にその所持人であること、右各手形の受取人欄に「富士建設有限会社」と記載され、第一裏書欄に裏書人「富士建設東京支社代表取締役五月女勇」の記名押印のあること、(ロ)の手形の第二裏書欄に裏書人「佐藤仁郎」の記名押印のあることは本件当事者間に争がない。

二、被告等は右受取人と第一裏書人との間の連続が欠いている旨主張するが、「富士建設東京支社」なる記載は「富士建設有限会社」の東京支店の略称として十分に通用すべきものであり、また「東京支社代表取締役」なる記載も同会社東京支店の営業についての代表資格を現わすものとして十分である。然らば受取人と第一裏書人の各表示間に些少の差違はあるが、社会通念上同一人なることを優に看取できるから、裏書の連続を欠くものとはいい難く、被告等の主張は採用しない。従つて以上の記載に照して裏書の連続ある手形を占有する原告はこれが適法な所持人と推定すべく、この推定をくつがえすべき何んの証拠もない。

三、次ぎに被告等主張の悪意の抗弁について判断する。

本件各手形が被告等主張の訴外会社との間の建築請負契約にもとずく請負代金支払のために振出されたこと、右訴外会社は右請負工事を訴外佐藤仁郎に下請負わせ、同訴外人が右工事等に用うる木材を原告会社から供給をうけるについて、その買受代金支払のために右訴外会社から右訴外人を経て同年三月下旬頃原告に対して本件各手形が譲渡されたものであること、並びに右請負契約に基く訴外会社の債務がいまだ完全に履行されていない模様であることは証人佐藤仁郎、原告代表者本人及び被告将夫本人の各供述によつて認めることができる。

しかしながら右手形に関し被告等と訴外会社との間に右竣工後でなければ本件各手形を他に譲渡してならない旨の合意の存していたことを認めしめる的確な証拠はなく、また被告人等と訴外会社との間に右請負工事が完成しなければ右手形金を支払わないとの合意のあつたことは被告将夫本人の供述によつて認められないではないが、原告が本件各手形を取得した当時、右訴外会社が右請負契約を怠り右工事の竣工しないであろうことを確実に予期していたことを認めしめる証拠は何一つ存しない。

然らば原告が手形法第一七条但書にいう「手形債務者を害することを知つて手形を取得した」ものにあたると言うことはできないから被告等の右抗弁も採用できない。

四、さらに弁済の抗弁について判断するに、原告が本件手形について、その自陳する事実欄記載の額以上の弁済をうけたことを認めしめる証拠はない。(原告代表者本人及び証人佐藤仁郎の各供述によれば、原告会社は訴外会社、佐藤仁郎又は被告将夫などから数回に合計金六七万余円を受領しているが、原告から訴外佐藤に供給した木材代金の合計は約金一三〇万円であつて、原告が右受領額のうち本件手形金の弁済に充当したのは内金三七〇、三四七円にすぎなく、その余は右手形以外の売掛債権に入金せしめるものであることが認められる)。

五、原告が同主張の日に支払場所で本件各手形を呈示したが支払を拒絶されたことは被告等の認めるところである。

然らば原告から被告両名に対して、各自(イ)の手形金五〇万円、(ロ)の手形金五〇万円からその自陳する入金額を差引いた残金一二九、六五三円、以上合計金六二九、六五三円及びこれに対する呈示の翌日以降である昭和三二年五月二八日から右支払済みにいたるまで商法所定の年六分の割合の遅延損害金を支払うことを求める本件請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九三条第一項但書前段、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部保夫)

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